真夜中のサンタ彼女

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 百合子は大きく溜息を吐いた。全く、どうしたものだろうか。
 食べ終わったハンバーガーの包み紙をぐしゃぐしゃに丸めていると、向かい合わせで座った彼が――梓が首を傾げた。
「どうしたの、機嫌悪そうだけど」
「別に」
「あ、試験の結果が悪かったとか? もう終わっちゃったんだから気にしたって仕方ないと思うけど」
「違う」
 そういうんじゃないの、と百合子はトレイに乗ったポテトに手を伸ばす。油が沁みて、しんなりとしていた。
 確かに試験の結果はよくなかった。けれど昨日で試験は終わり、明日は午前中に終業式があるだけで、午後からは冬休みとなる。もっと浮かれたっていいはずだ。百合子としても浮かれたいくらいだ。
「どうしたんだよ、ほんとに。試験は終わったし、もう冬休みになるし、明日はイブだし。いいことづくめだっていうのに」
(それだよ)
 百合子はげんなりといちごシェイクを啜る。一気に啜りすぎて、頭に一瞬痛みが走る。
 今百合子の頭を一番悩ませている問題が、そのクリスマスイブなのだった。終業式後、デートすることはもうふたりで試験前から決めていた。それは百合子だって楽しみだ。真の問題はその後にある。「ねえ梓」
「明日どうせ、理恵さんいないんでしょう? だったら折角だから夜映画館行かない? オールでやってるんだって」
「映画?」
「うん。最近一緒に観てないしさ」
 うーん、と梓は悩んだ。飲んでいたコーラをトレイに戻し、わざとらしいまでに腕を組んで身体を反らせてみせる。それだけで、ああ断られるのだと百合子にも分かった。
 案の定、梓は「でもさ」と否定の言葉を口に出す。
「クリスマスだからやっぱり家で過ごさないと」
 (だめか)百合子は内心諦めつつも、「どうしても?」と食い下がる。うん、どうしても、と梓はにこにこと言った。「だって、ほら、クリスマスだろ?」
「サンタクロースが来るからね」
 頭痛い、と百合子は思った。


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