王子様拾いまし、た?

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 でかい女だな。というのが、彼の第一声だった。
 部屋に入るなりの言葉だったので、エイカは一瞬状況がつかめず動揺した。自分のベッドに寝かせた少年は、すでに起きあがっている。大きな青い目をぱちぱちと瞬かせて、エイカを見ていた。
「どうやらひどい怪我はないようだよ」
 ベッド横に立つレミアムが、エイカを仰ぐ。「ちょうど、顔をのぞき込んだら起きたところだった」
 エイカは部屋に入り、後ろ手に扉を閉めた。「そうなの」
 レミアムのそばによると、少年はエイカをまじまじと見つめた――いや、見上げた。
「やっぱりでかいな」
 にっこりと笑顔で言うからには、悪気はないのだろう。分かっているけれど、エイカはちょっと視線を逸らす。「貴方は小さいわね」
「おう。小回りが利いて便利なんだ」
 明るい声が返り、エイカは顔を赤らめた。ごめんなさい、と小さくなると、少年は訳が分からないと言ったように首を傾げた。
「まあ、そこまでにしておいて。どこか痛いところはないか?」
 レミアムが割って入る。エイカはほっと息を吐きながら一歩後ろに引いた。そばにある水差しからコップに一杯水を汲み、少年に渡す。
「別にどこも」
「気持ち悪いとか、頭が痛いとか目眩がするとか、そういったことは?」
「ないなー」
 何故そんなことを聞かれるのか分からない。少年の顔が口ほどにものを言っていた。
「あのさー」
「何だ?」
 少年はレミアムやエイカを順に眺めてから、また部屋の中をきょろきょろと見渡した。「ここってどこなの? 俺どうしてここにいんの?」
「それは私が聞きたいところだわ」
 エイカは少し離れた椅子に座る。レミアムはそれを見て、ベッド横の椅子に腰を下ろした。
「貴方、ここの裏手に倒れてたの」
「倒れてた?」
 少年はびっくりしたように目を丸くした。今度はエイカが首を傾げる。「覚えてないの? 倒れる前のことを」
「倒れる前……」
 少年は拳を額につけて、「ううううううん」と唸った。エイカとレミアムは顔を見合わせる。そして数十秒後、少年はぺちん、と額を手のひらで叩いた。「あー……」
「分かった」
「なに?」
「うん」
 身を乗り出すエイカに、少年は重々しく頷く。
「俺、そもそも自分が誰だか分からない」


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